DMBook 0−データベース・マーケティングの定義


マックによるデータベース・マーケティング
菅野和彦著 1994年・光栄刊より


第1章 データベース・マーケティングとは何か

知恵の初めに知恵を得よ。あなたのすべての財産をかけて、悟りを得よ。
旧約聖書 箴言4章


データベース・マーケティングとかダイレクト・マーケティングと呼ばれるマーケティングは、まだ、それほど一般的なものとはなっていないようです。普通は、DM(ディー・エム)といえば、ダイレクト・メールのことか通信販売のことを思い浮かべる程度でしょう。しかし、単なるDMや通信販売、直販ではありません。
かといって簡単にひとことで説明できるほど確立された概念でもありません。研究者たちの間でさえ、共通の呼び名が決まっていないほど新しい枠組みなのです。この本のタイトルもデータベース・マーケティングとするかダイレクト・マーケティングとするか迷ったほどです 。「マックによるデータベース・マーケティング」でも「マックによるダイレクト・マーケティング」でも良かったのですが、「データベース」と書いてあったほうが、マーケティングに関心がある方にも、データベース・システムに関心がある方にも手に取っていただけると考えたからです。私はこれらの用語を厳密に区別して使ってはいません。
もちろん、マーケティング先進国のアメリカでは、出版されている本や雑誌の数を見ても、ソフトウェアの数を見てもわかるように日本よりも数十年進んでいるといえるでしょう。日本で出版されている本の内容もアメリカの優良企業の事例紹介かアメリカの研究の紹介がほとんどです。しかし、日本ではこれから導入され評価されていく考え方なので、もう少し様子を見てから考えようというほどのんびりしているわけにもいきません。マッキントッシュで実践する話しの前に、今注目を浴びているデータベース・マーケティングとはどのようなものなのかを少し見ていきましょう。

ダイレクト・マーケティングの定義

ダイレクト・マーケティングの関連書の中で、最も良く引用される定義は、アメリカのダイレクト・マーケティング協会の定義です。

ダイレクト・マーケティングとは、ひとつあるいは複数の広告媒体を用いて、あらゆるルートからの問合や注文を促すと共にこれを数値化し、これらの動きをデータベースに記録する双方向のマーケティング・システムである 。

この定義は、次のようなポイントをひとつにまとめた文章であるといえます。

・複数の広告媒体を活用する
・お客様からの直接の反応を数値化して計測する
・その反応はデータベースに蓄積され分析される
・一方向ではなく、お客様との双方向のコミュニケーションである
・部分的なテクニックではなくシステムである



データベース・マーケティングの定義

データベース・マーケティングとは何か。これをもっともわかりやすく説明してくれるのは、ルディー和子著「日経文庫・データベース・マーケティングの実際」 の第一章「データベース・マーケティングとは」です。データベース・マーケティングの目的・効果と必要な条件がバランス良く説明されています。この本では八百屋さんの例を挙げて説明しています。短い本ですので、通勤途中に読んでも1週間はかかりませんから、データベースを作り始める前にご一読することをお勧めします。

データベース・マーケティングは、新しいマーケティング概念ではありません。「適切な商品を、適切な客に、適切な時に、適切なオファーで、適切な場所で、適切な量を作る/売る」といったマーケティングの基本を、コンピュータ・ネットワークの助けを借り、以前より忠実に実現するための手段や方法を考えるものです。何が「適切」なのかを、コンピュータの助けを借りて割り出そうとするものです。

マス・マーケティングと対抗する相容れない概念ではない

よくマス・マーケティングと比較され、「もう、マス・マーケティングの時代は終わり、これからは、ダイレクト・マーケティングの時代である。」といわれることがあります。「顧客」ではなく「個客」という言い方を使ったりします。
しかし、どちらかがより有効で、どちらかが劣っているというものではありません。大きな違いは、対象がマスか個人かの違いではなく、マーケティングの効果を直接「計る」ことを重視するマーケティングかどうかということなのです。
従来のマス・マーケティングでは取り扱いづらい部分、また、不十分であった部分がダイレクト・マーケティングで補えるところに魅力があるのです。そして、最も補えにくかった部分であるマーケティングの戦略と効果の因果関係を明確にすることは、市場で生き残っていくために非常に重要なのです。
売上を最大にし経費を最小にすること、つまり、最大化された利益を継続することが自由市場での生き残り指標だからです。これがすべてのビジネスの目標であり、生産部門だけではなく、流通部門、経理・財務部門、マーケティング部門、人事部門もこの目標の実現に直結しています。

新しい総合的な枠組みとしてのデータベース・マーケティング

ひとつひとつのことは、別に目新らしいことでもなく、あたりまえのことではないかと思われるかもしれませんが、そのあたりまえのことのどこにポイントをおいて判断しなければならないのかを決めるのは結構むずかしいものです。しかし、枠組みがあれば、自分がそこからどのぐらい離れているかを知ることができます。
ダイレクト・マーケティングでいわれるひとつひとつのポイントは特に新しいことではないし、昔からいわれていることにすぎません。しかし、その原則を取り扱う枠組みは新しいものなのです。
新しい総合的な枠組みであるために、いろいろな呼び方があり、別々のマーケティングのように聞こえるかもしれませんが、その違いは強調点が異なることに起因します。


データベース・マーケティングの5つの特徴

マーケティングの新しい総合的な枠組みの特徴をまとめると、1)顧客満足、2)システム、3)クオリティー、4)コスト効率、5)リピートの5つになると考えられます。

ポイント1: 顧客満足 あくまでも顧客中心のアプローチ

どんなビジネスにおいても顧客に仕えることはスタートでありゴールです。新しいお客様を開拓して信頼関係を始め、一度関係をもったお客様との信頼関係をさらに発展させていくことがマーケティングの役割ですから、誰が自分の商品・サービスの顧客なのかをより具体的に知ることは最も重要なポイントです。また、その信頼関係の中心である自分の商品・サービスについての知識も同様に重要です。

ポイント2: システム より人間的なコミュニケーション

広告、セールス訪問、ダイレクト・メールのための工夫の寄せ集めのようなマーケティング上の単なるテクニックだけでは、お客様との信頼関係を長期的に築いていくことはできません。顧客満足を高めるためには統合化されたシステマティックなアプローチが必要になってきます。「売る」ということをコミュニケーションの観点から見てみることは、マーケティング・システムを作る上でカギとなる観点です。

ポイント3: クオリティー 顧客の主観を数値化する

生産部門において商品の品質が勝負どころであるように、マーケティングにおいても品質が勝負どころです。サービスの品質とは何でしょうか。何が基準となるのでしょうか。顧客との関係を知る上でもっとも大切な情報は「売上」です。これよりも重要な情報はありません。しかし、それだけでは不十分です。広告・DMに対する反応率に代表される数値化された明確な基準が必要です。むだのない質の高いサービスとは、より人間的なサービスの大量生産を目標としています。

ポイント4: コスト効率 サービスはただではない

利益と損失という自由市場のシステムによって、どこまで顧客に仕えれば良いのか、そのサービスは成功だったのか失敗だったのかを知ることができます。
サービスはただではないのです。サービスされている人はもちろん、サービスしている人にも益をもたらすように行なわなければなりません。自立していない赤ちゃんは、大人を助けることはできません。赤字の会社が死んでしまうのと同様に、赤字のサービスはいつか死んでしまいます。
なるべく早く、なるべく細かく市場でテストを行なえば、より良い、より大きな実を結ぶための道を知ることができます。

ポイント5: リピート 「一回のお客を一生の顧客にする」

信頼関係には終わりがありません。人間関係ですから、ここまで関係を良くすれば、あとは自動的にその良い関係が継続されるというものではありません。データベース・マーケティングのプロセスは、お客様との信頼関係が深まっていく過程であるといえます。ですから、買う前よりも買っていただいたあとの方がより重要です。買っていただいたときが本当のスタートです。

この5つのどれかひとつでも欠けてしまうと質の良いデータベース・マーケティングではなくなってしまうことになります。


Copyright 1997 kanno@kanno.com Updated 1997.03.24
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