DMBook 3−クオリティー 顧客の主観を数値化する


マックによるデータベース・マーケティング
菅野和彦著 1994年・光栄刊より


ポイント3: クオリティー 顧客の主観を数値化する

良い関係かどうかを知るための基準は何ですか?

サービス品質が良いかどうかはお客様の主観で決まります。


顧客の期待以上のものを提供するのに、企業が使うことのできるもっともすぐれた道具は品質である。これは、戦略計画研究所が、過去20年間に使われたマーケティング戦略に対して行なった、「市場戦略が利益に与える影響に関する調査」(PIMS)で明らかにされた。何千というビジネスについてのその調査で、一貫して示されていたのは、ビジネス競争で品質がもっとも重要な要素であり、製品の高品質が、投資収益率や利益、生産性、市場シェア、稼働率、従業員のモラルなどの向上に直接反映されるということだった。
作家のケキ・R・ボートによれば、品質とは、
「企業を上り坂に導くエンジンである・・・それは厳密に次のように定義される。
・コスト削減のためには品質の向上ほど効果的なものはない。
・品質はサイクルタイムの短縮に絶対不可欠のものだ。
・企業間の拡大した戦争において、設計サイクルタイムはその企業の能力を表わすものとなりつつあるが、その短縮に品質は重要な手段となる。
・顧客を満足させるには、もっとも重要な要素であり、最短の近道である」
PIMSの研究報告者は、成功した品質とは、設計書と一致したものをいうのではなく、顧客によって品質と"認められた"ものをいうのだと強調している。品質とは、平均無故障時間の測定から100万個当たりの不良部品数に至るあらゆる調査のあとで、結局、顧客の主観に落ち着くのだ。したがって、企業は、顧客を企業に関わらせるだけでなく、彼らの心を知る方法を見つけなければならないのである。

買い手の主観と売り手の主観が近づくようにするために、お客様の主観を数値という客観に置き換え、客観的な財産・資源を用いて、お客様の主観に訴えるのです。

ですから、与えるのは情報だけではありません。動機も与えなければなりません。サービスの品質を高めるためには、お客様の自発的な反応が何よりも欲しい反応なのです。強制的に反応を獲得しようとするのが押し売り、偽物の情報で反応を奪い取ろうとするのが詐欺です。強制的に獲得した反応は、良くないのはもちろんのこと、情報の質も良くありません。

草木を植えて水を注ぐのに似ています。種を蒔くのには時期があります。早く育てようとして、引っ張っても大きくなりません。水は与えすぎても少なすぎてもいけません。毎日毎日少しずつ忍耐強く与えなければなりません。害虫から守らなければなりません。良く肥えた土壌が財産で、良い種を見分ける目が必要です。草木が成長するのを農夫が喜んで見ているように、自分のお客様との関係が良くなっていくことをマーケターは喜びます。

お客様との信頼関係を計る基準

売上は「実」です。お客様は種です。
畑の大きさによって種の量も決まってきますが、同じ広さでも効率良く栽培すれば、収穫は多くなります。実が大きければ良いというものではありません。「良い実」には質が大切です。良い実をたくさん収穫するのが良い農夫です。

顧客との関係でもっとも大切な基準は「売上」です。これよりも重要な基準はありません。従来通り売上がもっとも正確で大切な基準であることにはかわりがありません。しかし、それだけでは足りません。

売上は、試験の結果です。売上は合格です。売れなかったのは不合格です。
売上情報のみがわかっているという状態は、まるで、試験を受けて総合点数はわかったのですが、個々の科目別の点数も問題別の正解、不正解もわからないような状態です。総合点数で他の受験者と比較することはできますし、偏差値算出できます。しかし、総合点数に最終的には現われるにしろ、個々の状態がわからなければ、次に何を強化すれば良いのか、どこが足りないのか、どうすれば良いのか漠然としてしまいます。情報が不足しているのです。
英語の試験であれば、自分が他のひとと比較して読解力が弱いのか、文法が弱いのか、会話力が弱いのか、問題別の正当率がわかると比較できますし、また、過去の試験と比較することもできます。

売上情報だけでは足りないのです。それに追加して信頼関係を計ることができる基準が欲しいのです。

パーソナルな情報の重要性

データベース・マーケティングでは、売り手と買い手との双方向の対話が強調されます。
従来のマーケティングでは、売り手からメッセージを送ることが中心で、それに対する反応は、「モノが売れた」ということだけ計測可能でした。もちろん顧客の視点で考え抜かれたテレビ・コマーシャルは十分にパーソナルですし、すぐに反応も得られます。
たとえば、暑い夏の夜にオールスター戦をテレビで見ているときに流れるビールのコマーシャルを思い出してください。ゴクゴクというその音に、のどがビールを欲しがっているのが十分にわかります。そして、冷蔵庫に向かうか、入っていなければすぐに買いに行かせます。
最初から顧客の反応を期待してはいますが、その反応は、ビールの売上金額という漠然とした情報の中に吸い込まれてしまいます。マーケティングのほかにも経営、生産、デザイン、流通など売上金額の中には極めてたくさんの情報が入り過ぎているために、すべての活動の総合的な結果ではありますが、それを知るだけでは情報として不十分なのです。

全体の情報と個別の情報とのバランス

マス・マーケティングは、対象がマスであり、ダイレクト・マーケティングは対象が個であると見られることもありますが、もっと的確に言うならば、顧客からの反応をマスでとらえることしかできないのがマス・マーケティングであり、ダイレクト・マーケティングは、顧客からの反応を細分化してとらえことができるマーケティングだと言えるでしょう。アプローチの対象ではなく、市場でのさばきの結果、すなわち企業の活動全体の結果を計るのか個々のマーケティング活動の結果を計るのかの違いです。

どちらがより重要かという問題ではありません。どちらも同様に重要です。企業活動の成果を見る視点の違いです。この視点のバランスをとるのは知恵と経験により養われていきます。扱う商品によっても、地域によっても、時間によっても、もちろん顧客によっても、どの情報をポイントに判断するのかは変わってきます。

データベース・マーケティングは万能ではありません。パーソナルであればなんでも良いと考えないように気をつけてください。
すべてのマーケティング活動をデータベース・マーケティングにするのではなく、上手にバランスを取らなければなりません。データベース・マーケティングとマス・マーケティングとのどちらが効率が良いかではなく、マーケティング上の数値化が、今経営上どの程度重要かという経営判断によります。

お客様がどのように考えているのかを想像して判断しアプローチするのではなく、どのように反応していただいたのかという客観的な基準にしたがって判断し、アプローチするなら、お客様とのコミュニケーションは格段に向上します。


Copyright 1997 kanno@kanno.com Updated 1997.03.24
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